かわうそ、淡水をゆく

2003年6月18日

鳥取県境港市

 「勝ち組」「負け組」という言い方が、世間に広まっているらしい。ここ2年ほど、忙しくて世事に詳しくないのだが、どうもこの言葉を聞くことが多くなった。どうやらはじめの意味合いは、企業の業績のいいところと悪いところをわける株屋の戯言だったらしいが、これをいかにも意味ありげな言葉として使うような、自称経済学者の手合いがラジオなどに出ているのは気に入らない。どだい企業の業績など、その時の経済状況によってどうにでもなるものだし、アメリカなどでは連邦破産法(通称チャプターイレブン)を適応されたあと、復活する企業だって少なくはない。どうにもこの分類は単純で乱暴すぎる。
 ましてや、これを人に当てはめるのは無茶苦茶な引用で、つい最近も「25歳までに結婚しなければ人生の負け組」というようなことを言われたが、本気でいってるんだろうか? まあ、週刊誌などがページを埋めるため、売り上げを伸ばすため、貧乏フリーライターが糊口をしのぐために書きそうなことではあるが、こんなことをまともに受け取るのはどうかしている。人生に勝ち組も負け組もあるものか。死んでからだって評価が決まらないのに。
 強いて言うならば、こんなことに自分を当てはめているやつは、すでに「負け組」ってことだな。オレなら、評価されるより、評価する方に回る。はっはっは。

 大社を出て、次の目的地は境港である。なぜかというと、昨年お世話になった佐藤さんの作ったフネが境港にあって、そこを訪ねるように言われていたのだ。そこで境港に行くことにしたのだが、大社ー境港はけっこう遠い。しかも、せっかく宍道湖、中海という水面があるのに、島根半島の外側をぐるっと遠回りしていかないと行けない。なんとか近道できないかと、大社で情報を集めてみたところ、島根半島の中程、鹿島町の港から佐陀川という川が宍道湖に抜けているという。海にも飽きたし、そろそろかわうそも真水を欲しがっているので、その川をさかのぼって、宍道湖ー中海ー境水道というルートで境港をめざすことにしたのである。

 16日、まず1日がかりで鹿島町まで移動した。ここまでが40キロもあるのだ。逆潮の中を日没まで漕いで、なんとか鹿島町恵曇(えとも)港に入り込んだ。翌17日、いよいよ佐陀川突入である。
 恵曇港の真ん中に橋が架かっていて、この下をくぐっていくと佐陀川である。。両側は町並みになっていて、ずらりと民家が並んでいる。もちろん、その前にはそれぞれフネがつないであって、ずらりと並んでいる。まるで運河みたいなもので、流れもほとんどなく、かわうそ号でさかのぼって行くにもなんの問題もない。えっちらおっちらのぼっていくのだが、本当にどこまでもフネがつないである。2キロほどのぼっても、岸にはまだフネが並んでいる。中には捨てられたようなものもいくつかあったが、いずれにせよすごい数のフネである。1隻、かわうそ号のテンダーにくれないかなあ。

 さらにのぼっていくと、やがて道路が川からはなれて、同時にフネもなくなった。両脇には田んぼが広がっている。その中をのんびりと漕いでいくと、向こうの方からボートがやってきた。むこうは前が見えないので、こちらでよけることにして右により、10メートルほどになったところで声をかけた。まさかこんなフネがいると思っていなかったんだろう。驚いた顔の横を、すまして通り過ぎていく。

 2時間かかって、宍道湖に出た。あまりきれいでないが、たしかに淡水である。岸沿いに、魚を捕る仕掛けがたくさん作ってある光景は琵琶湖によく似ている。仕掛けの間をすり抜け、松江に入った。ここからは大橋川という川を、今度は下っていくことになる。松江はさすがに県庁所在地だけあって、ビルがたくさん建っていた。高い建物といえば、福岡以来あまり見かけてないので、ビルを見ると、ああ町なんだなあという感じがする。大橋川の岸は、ところどころに階段などが作ってあって、普通のフネなら少しのつないで食事などに行っても良さそうである。昼ご飯のパンを買いそびれた河童は、できれば昼ご飯をここで食べたいと思っていたのだが、川からは店がわからず、進んでいくうちに町が突然終わってしまい、またしても食べそびれてしまった。腹ぺこのまま川を下っていくと、釣りのする人がのんびりと弁当を食べながらつり糸をたらしていた。

 さて、これで中海に入り、無事境港に入れるかと思ったのだが、やっぱりそういうわけにはいかなかった。大橋川から中海に出たとたん、北東から風が吹き出した。とたんに進まなくなった。有名な中浦水門まで、まっすぐコースを取ろうとするが、真向かいになってしまい、とても無理である。やむなく、岸よりのコースを取ることにして、向かい風の中漕いでいったのだが、距離が長くなった上にちっとも進めず、中浦水門までのたった10キロに、なんと5時間もかかってしまった。

 おかげで境水道通過は5時。あまりの遅さに様子を見に来たボートに、最後は引っぱってもらって、ようやく境港の公共マリーナに到着したのである。その後、こちらで出迎えてくれた松岡さんと、そのお仲間の方と焼き肉パーティーがあって、またしこたま飲んでしまったのである。2日続けて12時間漕いで、腹一杯焼き肉とビールを食べた河童は、そのまま意識を失い、気がついたら朝だったのである。

 幸いなことに、松岡さんたちのセールボート小屋が浜辺にあり、固い壁と屋根と電気とシャワーがある。またしても台風が来ているので、ここで台風をやり過ごすつもりである。かわうそ号は、公共マリーナにおいてあって、1日577円保管料がかかるらしいが、最近の境港は某国人が多く、治安があまりよくないらしいので、可愛いかわうそのため、これぐらいは支払おうかと思っている。まあ、公共なので、値切るわけにもいかないしなー。

恵曇のかわうそ。
水もトイレもなかったので、向こうに見える
工事現場のを無断借用した。
いや、いちおう断ったんだが、
聞く人がいなかったのだ。
佐陀川。
えんえんこんな風景が続く。
宍道湖。
海と比べるとものすごく楽。
世紀のアホ事業、中海干拓事業で有名に
なった中浦水門。
まったく、何考えてんだか。
引っぱられるかわうそ号。
河童はそうとうばてていた。
で、夜の宴会。
焼き肉とビールでとっても幸せ。