かわうそ号捕獲?

2003年4月10日

徳島県日和佐町

 9日は、朝8時に椿泊の大西造船を出発して、日和佐に向かった。

 8日は、台風並みの南風が吹いて、まあ荒れた荒れた。潮岬で25メートル吹いていたらしい。椿泊もものすごい風で、ありとあらゆるものが宙を舞っていた。こともあろうに、漁船のフタまでが飛んで沈んでしまい、かわうそ号でサルベージを手伝ったりしてから出てきた。
 椿泊は、天然の良港で、良港過ぎて外の様子がさっぱりわからない。出るときに、底引きの漁船から、外は吹いてるぞと声がかかったのだが、北風なので山の陰になるからいいや、と思って出てきた。
 たしかに、蒲生崎という岬をかわしてしまえば、北風は山にさえぎられて、少々吹いていてもどうってことはないのだが、問題は蒲生崎だ。案の定、近づくと波がばんばん立っている。ここは西からひょろっとのびた岬で、南は太平洋に面し、北は紀伊水道に面している。悪いことに、太平洋側からはうねりが入り込み、北からは風が吹いて、波が大きくなっていた。うーむ、と見ていたが、椿泊からここまで来るのに4キロも漕いでいて、いまさら戻るのもしゃくである。というより、北風が強くて、戻るに戻れないのだ。やはり、人生は逃げ道を作っておいてからしか物事をしてはいかんなあ、などと人生訓を考えながらつっこんでいった。

 蒲生崎を越えてしまえば、あとは思った通り山にさえぎられて、北風は弱くなり、あとはすいすい、と行けるはずであった。そして事実、日和佐まではすいすいすいっと行けたのである。ところが、まず日和佐に入るときになって、ここが川の河口であることに気づいた。漕いでも漕いでも港の入り口に入れない。そう、去年青森の十三湖の時と同じである。十三湖が、岩木川の河口にできた湖だということをすっかり忘れていて、40キロ漕いだあげくの入港で大変な目にあったことは記憶に新しい。またかよ〜と思いながらなんとか入り込み、今度はスロープを探した。灯台を過ぎてすぐ、左手にスロープがあるのだが、ここは町へ出るのに山越えをしなくてはならず不便だと聞いていたのだ。しかし、漁港というのはかならずどこかにスロープがあるものである。と、信じて港の奥へ奥へと入っていった。ところが、一番奥まで入ってきても、スロープらしきものがない。港の中をうろうろして、聞いてもみたがやはりない。うーむ、やはりあそこしかないのか。そう思って、港の入り口のスロープにフネを引き上げた。まあ、ここは場所もあるし、水道もあるし、川をはさんだ町まで出るのに、山をひとつ越えていかなければならないという点をのぞけば、それほど悪い場所でもないのだ、と思いきかせて(だって、川の向こうは町なんだぞ。直線距離で200メートル)上陸し、やれやれとバケツを持って水を取りに行った。
 ところが、蛇口をひねっても水が出てこない。二つある蛇口をどちらからも水は出てこなかった。そんなもの、どこかに元栓があって、それを開けばいいことはわかっているが、普通なら断りに行く漁協が、川の真向かいなのだ。こうなると、断りに行くか、他を探すがどちらかである。みると、川向こうの漁協には、数人人が集まってこちらをみている。ますます、黙って元栓を開けて水を使うわけにはいかない雰囲気になっている。
 これはしかたがない。こうなったら、かわうそ号にちょいと乗って、一言断りに行くわい、と思い、またしてもかわうそ号をおろし、川を横断した。ところが、川の向こうにたっていたのは、漁協の人ではなかった。いや、たしかに漁協の人もいたんだが、それだけではなかったのである。
「どうも、保安庁です」
といわれて、首をすくめた。実は、保安庁には出るときには予定を連絡している。ところが、この日に限って連絡してなかったのだ。うひゃひゃ、とおもっていると、
「いや〜、さっき見かけたんで、ああ今日出たんだ〜と思って待ってたんですよ」
とのこと。おまけに、よろしかったら巡視艇の横に泊めたらどうです?、とお誘いを受けてしまった。巡視艇の隣…。そんなところに泊めさせてもらっていいのかと思ったが、せっかくのお誘いであるし、なによりあげる場所がない。
 というわけで、この夜のかわうそ号の宿は、なんと巡視艇の隣と相成ったのである。

 その後、テントを組み立てていると、またしても保安庁の人がやってきて、夕食にカレーはいかがですか、といわれた。さすがに悪いと思って、いやいや申し訳ないので、といったのだが、まあまあ一杯だけ、といって皿に一杯のカレーをいただいてしまった。ついでに今朝も、河童さん、呼ぶ声がするので、テントを開けると、差し入れ、といっておにぎりとお茶をいただいてしまった。まったく、恐縮の限りなのである。

 そして、今日10日、いよいよ高知県だ、と意気込んでいたのだが、昨夜から吹き出した北風が強く、停滞にした。高気圧がおおい、全国的に穏やかなひよりになるはずなのだが、昨夜はテントが飛ぶぐらいの風が吹き、今朝もびゅんびゅん吹きまくりであった。明日から天気が崩れるらしいが、はたして、四国横断はいつのことになるのか、またしてもこうご期待、なのである。

椿泊を出るところ。
パドルで水中に沈んでいたフタをとった。
めずらしく、かわうそが仕事をした。
ちなみに、ここは蒲生崎ではない。
あんな時に写真が撮れるわけがない。
巡視艇に優しく抱かれるかわうそ号。
めずらしく河童が漕いでいる写真。