印南町は美術館を作れ!

2003年4月3日

和歌山県印南町

 印南町である。PHSの電波は、ここまで届いていないのだが、なにやら掲示板があれこれ騒がしくなっているし、グレ電(みみかのISDN公衆電話)を役場前で見つけたので、更新しようと思って努力している。

 1日に、串本を出て、白浜町椿というところへたどり着いた。この日、天気予報は「北西の風が後やや強く」という予報だった。この「のち」というやつがくせもので、いったい何時から吹き出すのか、さっぱりわからないのだ。エイプリルフールだし、たぶんこの予報もウソだろうと出ていったのだが、果たしてウソであった。というより、はずれたのか。
 警戒して、吹き出したらすぐに逃げ込もうと慎重に進んでいったのだが、いつまでたっても吹き出さず、結局午後4時まで40キロ漕いで、椿に入った。ここは白浜温泉のすぐ南にあたるのだが、バブルの後遺症なのか廃墟っぽいマンションがたくさん建っていた。
 この日は、朝は降っていなかったが、出港直後から雨が降り出し、ずっと雨の中を漕いでいた。椿についても雨は降り続き、その中でテントをはって、テントの中でようやく漕ぎ服を脱いで着替えた。漕ぎ服の中は濡れないだろうと思っている人がいるかもしれないが、たしかに水は入らないものの、汗でびしょびしょ。どうしようもないので、そのままビニール袋につめて置いておいた。
 テントの中で、ストーブを組み立て、ラーメンを食って寝た。

 2日、一応は3時に起きてみたのだが、なんとなく風が悪いのでもう一度寝た。5時半すぎ、明るくなってから様子をうかがうと、なんとか出られそうなので、出ることにして準備した。
 ところが、やっぱり風が悪く、白浜を超えると田辺湾の内側から、風と波があたってきた。まともに横から当たってくるので、少し進路をずらして漕いでいったが、どんどん流されていった。結局、田辺湾を横切るのに4時間かかり、その間の平均速度は3キロぐらいだった。田辺湾をほぼ横切ったところで、ようやく波がおさまったので、小休止してパンを食べる。椿で補給しなかったし、米も炊かなかったので、この日の食料は、賞味期限の切れた菓子パンとチョコしかなかった。
 ところが、ようやく田辺湾を横切って、これからは波もないと思って漕ぎだしたら、風向きがかわっているではないか。それまで、陸地の方向(北東)から吹いていた風が、いつのまにやら北西の向かい風にかわっている。なんだこれ〜と思いながら漕ぐけど、またしても3キロしか出ないじゃないか! 御坊まで残り12キロ。時間はすでに3時である。当然、日没までの残り時間を考えると御坊入港は絶望的になり、一番近かった印南に逃げ込んできた。
 印南は、スーパーもあり、食料は手に入ったけど、風呂屋がない。ああ、風呂に入りたい。

 というわけで、今日が3日だ。今日は御坊へ行くぞ、と思って起きたのだが、北の風が強くて、出せそうになかった。もういいや、と思って寝ていたら、東北の河童ゲッター、海賊さんから電話がかかってきた。ここ2日、ネットのチェックができなかったので知らなかったが、掲示板がなにやら騒がしくなっているらしく、今日、風来坊さんという方が、こちらにやっているという話だった。へ〜い、停滞しておりますのでどうぞ、といって電話を切って一時間半後、本当に風来坊さんがやってきた。これはチャンス! 御坊まで連れて行ってもらって(だって車で12キロなんてすぐだもの)風呂に連れてってもらおう、などと思ったが、なんやらかんやらお忙しいようで、昼ご飯をご一緒して、すぐに風来坊さんは帰っていった。カツ定食ごちそうさまでした。

 で、いまこれを書いているのだ。と、書いている途中に地元の人から声がかかり、風呂に入りに来いということになった。やった! 風呂ゲット! いってきま〜す。

 と、ここまで書いて風呂を借りてきたのだが、ちょっとそれどころではないことになってしまった。というのも、風呂を借りに行った家に、すごい絵を見つけてしまった。
 港で話していて、絵を描いているというので、そりゃぜひ見せてください、などといつものつもりで出かけて行ったのだが、見せてもらって、思わずうなってしまった。ちょっとやそこらの龍ではないのだ。すごい龍なのである。
 聞けばこの方、坂口盛生と号する日本画家で、漁師をしながら独学で絵を学び描いていたとか。しかし、見せてもらった絵は、とても独学で描いたものではない。龍のうろこの一枚一枚、波のしぶきのひとつひとつの迫力が、本物なのである。本人は、趣味で描いていて、どれぐらいのものかわからないので、展覧会などにもほとんどださなかったらしい。何年か前に、始めて展覧会に出して、評価の高さに自分で驚いたそうだが、そういう問題じゃないでしょう!と叫びたいぐらいの絵なのである。正直言って、この絵が世に出ないのは惜しい。あまりにおしいと思うのだ。どれほどの才能に恵まれても、運がなければ世に出られないと言うのは、芸術文学に共通することなんだが、それにしてもなあ…。

 あまりにすごい絵なので、ホームページで紹介する。誰かツテがあったらどこかに紹介して。というより、印南町も町内にこんなすごい画家がいるんだから、なんとかしろよ。少なくとも、坂口氏の絵の保存は絶対すべきだぞ。

 珍しく、うなりまくりの河童なのである。

水平線傾いてるな
椿の港。
出航前の様子。
やや風あり。
椿にはこんなマンションが建っていた。
伊豆、千葉でよく見かけた風景だ。
まさにバブルの塔。
関西河童ゲッターの風来坊さん。
この龍。
すごいのだ。
誰か世に出してやってくれ!
坂口 盛生氏。