高速南下中

2002年10月14日

青森県西津軽郡鰺ヶ沢町

 寒い。とにかく寒い。昼間はともかく、5時で日が暮れたあと急速に気温が下がって、テントの中でさえ寒くていられない。今は寝袋をひっかぶってパソコンをたたいていてるが、このままでは先が思いやられる。ともかく、暖かいところへ行こうと、必死になってこいでいるのだが、なにしろ1日30キロしか進まないものだから、そう簡単にはいかなくて、当分寒さに震えながら書くことになる。うーん、なかなかつらいなあ。

 11日についに大間をでて、まずは下北半島をいったん南へ下りた。というのも、下北半島と津軽半島というのは、けっこう高さが違って(?)いて、平舘海峡を渡るために少し南へ行かないといけないのだ。そこで、大間から30キロほど行ったところにある佐井村牛滝というところに入った。まあ、ここがすごいところで、民家の数も数十軒しかないし、商店は全部閉まっているし、携帯電話の電波もときどき通じなくなるというところであった。
 ともかくここで一晩過ごしたのだが、星がきれいだった印象しか残っていない。あとは何もないところであった。

 12日は、いよいよ平舘海峡横断ということで、行くぞと気張って出てみたものの、いきなり潮に捕まってこげどもこげども時速2キロ。このままでは津軽半島にたどりつけないぞと思っていると、2時間ほどして今度は突如スピードが上がって、そのままするすると津軽半島に吸い込まれていった。竜飛岬のすぐ下に港があって、そこまで潮が続いていてくれたらなどと都合のいいことを考えていたのだが、もちろんそんな都合のいい話がある分けなく、今別町の沖合で潮はなくなり、あとは自力でこぐことになった。
 竜飛に入り、漁師に聞くと丘の上のホテルで風呂に入れるという。もちろん、牛滝では風呂になんか入ってないので、ライトを持って風呂に出かけた。途中、急な階段を上っていったのだが、あとでこれが有名な階段国道だと知った。ガイドブックを持たずに旅をしているので、こういうことがまま起きる。丘の上には津軽海峡冬景色の歌の碑だとかもあったが、一応元社会科講師としては、この歌の間違いはぜひとも訂正しておきたいものだ。竜飛岬は北のはずれではない。緯度的にいうと、大間崎が北のはずれなのである。もっとも、先に書いたように、大間崎の北のはずれは、すっかり整備されてしまって、とても「はずれ」の印象はないから、歌的には竜飛が北のはずれになるのは理解できる。大間崎は岬と行っても湿地があるようなだらだらとした丘陵地なので、竜飛崎のようにどーんと切り立った岬の方がインパクトが強いのだ。
 それで、ホテルで風呂に入ったまではいいのだ。問題はその後、今日は40キロもこいだし、明日はいよいよ日本海なので、記念にここで食事でもしていこうかななどと思い、ホテルのレストランをのぞいた時だ。なんと、6時という時間にもかかわらず、レストランが終わっている。信じられない思いでドアを押してみたが、しっかりと閉じられているのである。しかたがないので、テントに戻りインスタントラーメンを食べた。

 そしていよいよ13日、竜飛岬を通過したのだ。そう、たしかに通過したのだ。この日、漁師は潮が強いから今日は無理だといっていた。しかし、別の漁師は9時ぐらいならなんとかなるんじゃないかといっていた。ならば都合のいい方を解釈するに決まっていて、9時まで待って出ていったのだ。ところが、竜飛の先は川になっていた。そして、これはまずい、と思ったときには、その流れの中に吸い込まれていってしまったのである。もはやどうしようもないので、必死になってこいだが、とても太刀打ちできるような流れではない。GPSを見ると、もうむちゃくちゃで西へ行ったかと思うと、次には東、ぐるぐる進路がかわっている。全体としては、西からの流れに押されて、少しずつ北海道の方へ流されていっているようだ。冗談じゃない。函館にはもう行った。
 なんとか助かる方法はないものかと思案しつつパドルを動かしていると、後ろの方からエンジンの音がした。振り返ると、船が一艘近づいてくる。できるだけさりげなく片手をあげて、その船を呼んだ。そして、よってきた船に潮のないところまで引っぱっていってくれるようにお願いし、投げられたロープにかわうそ号のもやいを結んで、20分ほど引っぱってもらい無事竜飛岬を越えることができた。なんのことはない。竜飛岬は、ホンダの30馬力の船外機でこしてしまったのである。
 そうして、ともかくも竜飛岬を越え、十三湖までこいでいった。時間的に十三湖はぎりぎりの距離にあった。しかし、ここまでこいでおかないと、翌日の港に困る。この辺りは、かなり長い砂浜が続いていて、入る港がないのだ。次の行程も考えて港を選ばないとひどいことになる。
 しかし、思った通り十三湖まではぎりぎりの距離だった。日没が5時。十三湖の入り口に入ったのが5時ちょうど。しかも、すっかり忘れていたが、十三湖は岩木川の河口にできた湖で、当然水は十三湖から海に流れ出ている。日の暮れた港口に入っていくと、猛烈に流れがあるではないか。30キロこいで(しかも竜飛を越えたあとにももう一カ所潮の強いところがあって大変だった)へたばっているところへ、最後にこれである。やっとの事で登り切ったが、スロープを見つけるころには真っ暗になっていた。
 十三湖もまた何もないところで、港には水もなかった。近くの(閉まった)食堂に行って、タンク1杯ぶん水を分けてもらい、またしてもインスタントラーメンを食べた。

 そして、今朝十三湖をでて、ずっと砂浜で風景がかわらないところを30キロこいで、なんとか少し町の鰺ヶ沢にたどり着いたのである。今日は北西の風が少し吹いてしまって、波がぱちゃぱちゃになってしまい大変だった。2メートルほどの波なんだが、うねりとも違うし風波とも違うし、なんだかへんな波で、あとで漁師に聞いたら、この辺は北西が吹くとこんな波が立つそうな。かなわん。

 ともかく、こんな感じで高速南下中なのだ。南に向かって進むことになるので、ひさびさにサングラスをかけてこいでいる。

牛滝の集落
これが階段国道。
嘘だといってくれ〜!
で、結局引っぱってもらった。
岩木山。