ついに大間到達!

2002年10月7日

青森県下北郡大間町

 ついに本州最北端、大間町にたどり着いた。ここで航海が終わるわけではないが、とりあえず一区切りという感は多大にある。間近に見る北海道は来年に回すこととして、ともかくここから南へ進むのだ。

 6日は、実に10日ぶりに出航準備をして、ご近所の皆さんに手伝ってもらってフネを降ろした。セメントのスロープではないので、荷物を積んでどうやってフネを降ろそうかと思っていたのだが、大畑の皆さんは最後まで親切で、みんなでかわうそ号を担いでおろしてくれた。それだけではなく、おにぎりとイカの差し入れまで頂いて、河童はやる気満々で出航することができた。まったく、大畑の皆さんには感謝、感謝なのである。

 この日の津軽海峡の天気予報は「西の風、のち東の風がやや強く」ということになっていた。電話で気象通報を聞いてみると、すでに大間では東の風がゆるく吹いており、日が昇るにしたがって強くなると見た。潮は、その日その日でまったく違った動きを見せるので、出てみないとわからないと定置網の船頭から聞いていた。
 こぎだしてみると、岸沿いの潮は西向きに流れていた。そこで、その潮をひろいながら西に向かった。ところが、先日高いバス代を払って来た下風呂というところの手前にさしかかると、なにやら妙な波が立っている。どっちの流れだ、と思いながら入っていくと、はたして東向きの逆潮だった。さっきまでの順潮は消えてしまったらしい。その中をこぎながら、GPSを見ているとほとんど前に進んでいない。これはまずいぞと思って、近くにあったブイにこぎ寄せてみると、水が川のように流れていた。長良川の淵よりは、はるかに速く流れている。しまったと思ったが、逃げようもないので、ただただひたすらにこいだ。そしてこぐこと1時間半。やっと急流地帯を抜け、下風呂の沖堤の内側に逃げ込むことができた。下風呂に入るつもりは毛頭ないのだが、急流地帯をこいだせいでおなかが減ってしかたがない。ここいらでさっきもらったおにぎりを食べたかった。フネを流しながら食事をしていると、堤防の上の釣り人が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

 一休みして、満腹になったので、再びこぎだした。30分ほどすると、予測通り東風が強くなってきた。これは追い風になるのでありがたい。予報の「やや強い」というのは、5メートルから10メートルまでの風のことなので、追い風ならばぎりぎりこげる風速である。しかし、しばらくすると「やや強い」どころではない風が吹いてきた。ときおり2メートルぐらいの波が後ろから追ってくるではないか。かわうそ号は船首を波につっこみ、横を向こうとする。柄沢さんに作ってもらった特製巨大ラダーが利いているものの、波の力に押されてしまって、ラダーペタルが固定されたように動かない。そのうち、かわうそ号が波の上を走り出した。全長6メートル40センチ、総重量170キロのかわうそ号がプレーニングして、GPSの速度が恐ろしいほど上がっていく。9キロ台は普通、すぐに10キロを越えだした。もちろん、ラダーなど動かせる状態ではない。かわうそ号に運命をまかしたまま、波まかせに突き進むだけである。GPSが、13キロをしめしたときは生きた心地がしなかった。

 そして2時間ほどこんな状態が続き、大間崎が近づいてきた。大間崎の周辺は港がたくさんあって、防波堤が長くのびていた。ともかく岸寄りを行けと聞いていたので、岸に手が届きそうなところをねらってこいでいった。すると大間崎の先端は、すっかり観光地化されていて、階段状の護岸になっていた。なんだこりゃ、と思って通り過ぎると、すぐ向こうが漁港になっていてスロープがある。せっかくなので、そのたぶん本州最北端のスロープにかわうそ号を引っぱり上げ、記念撮影をすることにした。本州最北端には、土産物屋が並んでいて、尻屋崎とかトドヶ崎とか、灯台しかない岬とはずいぶん雰囲気が違った。でも、ついでなので、絵葉書を買って、再びフネに乗り込み、フェリー乗り場のある港へフネを入れた。ともかく、海岸線がずっと港になっていて、どこに入れても良さそうだ。

 さてさて、フネをあげてテントを張ると、すでに暗くなっていた。ラジオを聞くと、7日は低気圧の影響で風が強まりそうだった。東風が吹くのは今日だけだろうと思って強行突破をはかったのは正解だな、と思いつつ、静かに眠りについたのである。

 そして翌日、確かに風が吹き出した。それも「やや強く」などといったレベルでなく、「やけくそに」とか「おもいっきり」といった感じで西風が吹き出したのだ。テントは船を止める杭にしばりつけてあるので、飛びはしないが、風でたわんで吹き飛ばされる一歩手前。河童は中で重しになって、テントを支えていた。1時間ほどそうして支えていたが、そのうちテントがたわむのにもあきてきて、飛ぶなら飛べと、寝ころんでうつらうつらしていた。そうすると、昼過ぎになって外から呼ぶ声がする。なんだ、と思って出ていくと、昨日昆布を干していた人が立っていた。早口の下北弁は聞き取りにくく、半分ぐらいしか意味がわからないのだが、風が強くなってくるので、テントをたたんで家に来いと言ってくれているようだ。普段なら、テントで大丈夫ですといってしまうのだが、今日ばかりはさすがの河童もテントは危ないかもと思いかけていたところだ。ありがたくお言葉に甘えることにして、テントをたたみ、この神馬さんのお宅にごやっかいになることにした。

 そんなわけで、またしても「親切な近くの人」のお世話になってしまっているのである。ちなみに、気象通報で確認したところによると、昼間大間崎灯台では19メートルの西風が吹いていた。さしもの河童も、弱気になるわけである。

大畑出航風景。
お世話になりました。
でも、大間の手前でこんなふうになってしまった。
このイカ釣り船も、心配して来てくれたようだ。
こっちは心配されないように、余裕で写真を
取ってみたりする。
ついに見えた大間崎。
東風はびゅんびゅん。
ここが本州最北端の地。
あまりといえば、あまりの光景に言葉をなくした。
もっと、地の果てをイメージしていたのだが…。
でも、記念撮影さ。
ちなみに、おみやげ屋は4,5軒あるだけで、
あとは何もない。この裏はテントサイトになっていて
ただでテントが張れ、なおかつ炊事場もある。
かわうそ号も記念撮影。
お前を作り出してから、いろいろなことがあったなあ。
でも、ようやくここまで来たんだぞ。
なあ、かわうそよ…。
7日、吹き出した風に飛ぶ直前のテント。
フレームが1本曲がってしまった。
避難させてもらったあと、念のため見に行った。
昨日は東側がすごくて、今日は西側がすごいことに
なっていた。
やはり、昨日は唯一のチャンスだったのだ。