河童、台風避難中

2002年10月1日

青森県下北郡大畑町

 台風21号は本州を縦断しそうな勢いである。冗談じゃないぞ、と農薬問題で揺れるリンゴ農家(台風が来ると収穫前のリンゴはみな落ちる)でなくとも思うところであるのだが、河童もかわうそも動けるわけがなくて、ついに佐藤さんのところへ避難させてもらっている。朝からフネを引っぱり上げるのを手伝ってもらって、雨と風の中テントをたたみ、荷物を運んで撤収である。佐藤さん宅の「凪の間」を間借りして、薪ストーブの燃える中、ぬくぬくとパソコンをたたくのも、旅の醍醐味のひとつである(?)。

 昨日は、どうしても風呂に入りたくて、風呂屋を回ったのだが、月曜日は統一風呂屋お休みデーとかで、大畑の風呂屋は全部閉まっていた。3軒も風呂屋があるので、ローテーションぐらいくんだらどうなんだと思ったが、3軒とも固く扉を閉ざしていて、河童をあざ笑っていた。
 くやしいので、意地でも風呂に入ってやろうと、隣の風間村、その名も下風呂というところの温泉に入りに行ってやると、バスの時間を調べ、あたふたと用意をしてバスに飛び乗った。恐山でもらってきた下北半島のパンフレットによると、下風呂には大湯と新湯という二つの公共浴場があって、入浴料はそれぞれ300円であった。そこで、まあそれぐらいならバス代を払ってもいいであろうと、バスの料金は調べずにバスに乗ったのである。ちなみに、大畑からむつバスターミナルまで約14キロ、440円であるので、それよりは安いか、悪くても同じぐらいだろうと想像していた。
 ところが、バスに乗って整理券を取り、窓の外なんぞをながめていると、前についた料金表がバス停ごとに上がっていく。河童の取った16番の料金は、あっという間に440円をこしていくではないか! 窓の外に広がる津軽海峡の景色が、急に荒涼としてものに見えてきた。その後も、順調に料金表はかわり、下風呂に着く頃には640円という数字が燦然と輝いていた。バスから降りた下風呂の空気が冷たかったのはいうまでもない。

 そして、たどり着いた新湯は、30畳ぐらいの浴室の真ん中に、どーんと浴槽が掘ってある大胆な風呂だった。普通、風呂というと、番台を抜けて脱衣所があり、さらに扉を通って洗い場があり、浴槽があるものなのだが、ここにはそんなセオリーは通用しない。ともかく、浴室の中央に浴槽があるのだ。そのまわり2メートルほどが平らになっていて、そこが洗い場になっている。浴槽の縁は10センチぐらい高くなっているだけで、なんだか温泉と言うより幼稚園のプールみたいな感じだ。
 ともあれ、3日ぶりの風呂なので、体を洗ってお湯に使ったのだが、これが熱い。1人ならば、黙って水を入れてしまうのだが、こういうときに限ってもう1人いるのだ。しかたなく熱い湯につかったが、この風呂桶も洗い場の床もFRPにペンキを塗った代物で、なんとなくポリエステル樹脂の成分が、湯に溶けだしているような気がしてならない。もともとが硫黄泉で、硫黄のにおいがするのだが、どうにも落ち着かなくてそうそうに出てきてしまった。

 バスまで30分ほどあったので、下風呂の集落を回ってみた。一応は観光地らしく、ホテルや旅館はあるのだが、それだけであった。港に行くと、活イカ備蓄センターというのがあって、烏賊様レースというのをやっているらしい。そこでホテル3軒旅館11軒という温泉街を抜けて、港まで下りてみたものの、平日の夕方にそんなものをやっているわけもなく、とぼとぼとバス停まで戻ってきた。
 そしてまた、5分送れてやってきたバスに乗り、大畑町まで戻ってきたのである。

 とまあ、下風呂はいまいちだったものの、大畑まで戻ってくると、佐藤さんのところでちゃんちゃんナベが始まり、またしても宴会が始まってしまった。ちゃんちゃんナベとは、サケの切り身を大きな鉄板の上で焼き、それに野菜をのせて味噌で味を付けるという豪快な料理で、今朝とれた大きなサケがじゅうじゅうとうまそうな湯気を立てて焼けているのである。なんだかここに来て、毎晩飲んでいるなあなどと思いながら、ついつい注がれるままにビールを頂き、下風呂のことなどすっかり忘れてしまった河童なのである。

 津軽海峡は、冷たくなったり暖かくなったり、潮の流れがかわりやすいのである。

あいかわらず発電機は快調。
雨が降ってきたので、おいてあるフネの中で
回していた。
新湯。
坂を上った行き止まりにある。
下風呂にはもう一つの泉源、大湯もある。
大畑からのびる鉄道工事のあと。
鉄道があったわけではなくて、幻に終わった路線
らしい。戦前、戦中の話で、大間までの計画が
あったそうな。
ちなみに現存した本州最北端の鉄道は大畑なのだ
そうで、その鉄道も今は廃線でない。
下風呂のメインストリート。
ホテルの浴場はいいらしい。
なんといっても、下風呂は食べ物がいいという話だ。
河童には縁がないが。
サケを一匹どんと入れる。
ナベに入りきれないので、尻尾は切られた。
そしてこのように野菜が盛りつけられ、
味噌がのせられる。