河童の田舎暮らし

2002年9月4日

岩手県下閉伊郡宮守村

 宮守村は携帯が通じない。いや、おそらく宮守村全体が通じないわけでもないと思うが、少なくともいまいるところは通じない。もちろんPHSの電波などとんでいるわけもなく、ラジオだってほとんど入らないのだ。河童の持っているポータブルラジオはまったく役に立たず、おどろいたことにNHKさえも入らない。ほとんど電波暗室状態で、健康にはいいのかもしれないが、ストレスはたまるいっぽうである。
 河童の周辺の人は知っているが、河童は良くメールを書く。こいでいる最中というのは、ヒマでしょうがないので、休憩のたびにだれかかれかにメールを書いては送っている。こぐことは単調で、基本的におもしろくない行為なので、このメール書きはけっこうなぐさめになるのだ。ところが、ここでは河童に唯一許された娯楽のメールが送れないのである。もちろん、こいでいるわけではないし、N盛氏の手伝いをしたり、やることはあるのだが、どうもいつもできたことができなくなるというのはストレスの原因になる。国道まで下りると携帯が通じるという話もあるので、明日にでも実験してみるつもりだ。

 今日は一日、N盛氏の手伝いをしていた。朝から熊が出るという山の中へ入って、簡易水道を直したり、ぬかるんだ道に埋め込んであった丸太を掘ったりと、力仕事に汗を流していた。本当は、なめとこ山へ薪を拾いに行く予定であったのだが、急な仕事が入ってやめになった。なかなか田舎暮らしも忙しいのである。
 ところで、ここにはにわとり15羽と山羊が1匹いる。にわとりは、比内鳥10羽とまたぎとかいう黒い種類が5羽いる。またぎという種類にはまったく興味がないのだが、比内鳥はちょっと食べてみたいのである。秋田名物きりたんぽ、これの中に入れるのが、この比内鳥なのだ。全体に茶色で、羽が非常に小さいのが特徴で、肉がとてもおいしいらしい。「食ってもいいが、くいたきゃ自分でつぶせ」と言われているので、近々1羽つかまえて食ってやるつもりでいる。N盛氏はどうも苦手らしいが、河童はにわとりをつぶすぐらい平気である。なに、魚の活き作りと同じである。
 山羊の方は、どうもへんなやつで、人が見ていないと草を食べない。乳をとるつもりで飼っているらしいが、まだ全然子供で、当分とれないらしい。だったら早くえさでも食って大きくなれよと思うのだが、せっかくN盛氏が草がたくさん生えている場所につないでいるのに、ほとんど草を食べないのだ。そのくせ、人が見ていると食欲が出るらしく、おもむろにそこいらの草を食べ出す。そのせいか、妙にやせていて、このままでは永久に乳を出しそうにない。しかたがないので、N盛氏は朝夕の30分間、この山羊の食事につきあっている。いや、何をするわけでもなく、ただじーっと山羊を見ているだけなのだが。

 そんな動物に囲まれて、河童は山の生活を送っているのである。いつになったら海に帰れるのか。河童にもわからないのである。

 

簡易水道の取水口。
伏流水が大量に流れている。
水道も通っているので、これは家畜と
畑用なのだ。
比内鳥。
うまいらしい。
山羊のはなちゃん。
すごくやせている気がする。
なぜ人が見ていないと草を食わない?
ちなみに、山羊は偶蹄目である。
さて、羊はどっちでしょう?
N盛氏。
長らくの教員生活をやめ、田舎暮らしに
入った。
N盛氏の作業小屋。もともとは牛小屋
だったようだ。
発電機は河童のもの。最近、つかって
いなかったので、心配で持ってきたが、
かけてみたら一発でかかった。
4サイクルエンジンはこれだから好き。