パソコン修理中の間のこと(5)

2004年1月14日

冬眠中

 車検を自分で取ってきた。
 河童の今の車は、おたんこなすナースが嫁に行く時に「新しいの買うからあげる」といってくれた10年落ちの軽自動車である。旅に出る前に乗っていたプリウスは、旅の経費を出すために手放してしまい、ちょうどいいタイミングで軽自動車が手に入ったので喜んでいたのだが、1月17日で車検が切れる。帰ってきてから、ろくに仕事もしてなく、経済状況は常に危機的な状態なので、少しでも安くと自分で持ち込むことにして、今日、車検場に行ったのである。検査コースに入り、テスターの上で、ブレーキを踏んだり、ライトをつけたりしていたのだが、最後の下回りの検査で、ちょっと降りてね〜といわれて、なぜかも一度車がリフトアップされた。検査官に言われて車の下をのぞくと、ここのゴムが切れちゃってるんでなおしてきてね〜と指さされた。見ると右側のトーションバーのゴムが切れてグリスが出ている。これはまずい。すぐに知り合いのモータースまで走っていって、30分でなおしてもらい、また戻って再検査。今度は無事合格したものの、このモータースに隠れて、こっそり自分で車検通そうとしたことはバレバレ。はじめっから、ここに頼めば良かったんだけどねえ…。
 ああ、ごめんね野村さん。

 かわうそ号は、一週間酒田に滞在した後、ようやく北に向けて出航した。
 この日、すなわち7月22日も東風がけっこう強く吹いていた。しかし、午後から風が落ちて来るという予報を信じて、出ちゃったのである。もし、東風が強くなれば、そのまま日本海を西へ流され、行き着く果ては某国である。あんなところに行きたくないので、東風の日は出たくなかったのだが、もうこれ以上待てなかったので、あてにならない天気予報をあてにして、出てしまったのである。
 酒田港を出ると、岸寄りに進路を取った。まっすぐ北に向かうと、沖出しの風でどんどん流されるので、やや東よりに針路を取って、フェリーグライド気味に漕いでいった。吹浦という所の沖合に来た時、後ろから灰色の船が近づいてきた。保安庁かと思ったら、山形県警の警備艇であった。カヌーというのは不便なことに、後ろが見えない。だから後ろから近づいてこられると、音は聞こえるのだが、姿が見えないと状態になってしまい、いちいち向きを変えて後ろを見るのも面倒なので、後ろの船は無視することになる。
 そうして無視していたのだが、やっぱり近づいてきた。向こうだって仕事である。不審船とあらば、様子の一つも見に行かないと、報告書が書けない。そうでなければ、治安だって守れないのである。
 首を回してみると、デッキに紺色の制服を着た人が1人立っている。するするとデッドスローで真横に並び、声をかけてきた。
「あの〜、なにやってんですか?」
「カヌーで日本一周してて、愛知県から来たんだけど」
「ありゃ〜、そりゃご苦労さん。今日、風強いから気をつけてね」
「はあ、どうも」
「じゃ、がんばってね」
冗談のようだが、本当にこういって、警備艇は去っていった。ん〜、どうもあれこれ言われるという噂が、河童にはあてはまらないなあ、と思っていると、一度は離れた警備艇が、ぐるりと回って戻ってきた。今度は、違う人が外に出ている。やっぱり中で話をして、職務質問ぐらいしておこうという話になったんだろうかと思って待っていたら、
「あのさ、あの岬、十六羅漢っていうんだけど、あそこ越えたら風おさまるから。岸べた通っていけば大丈夫だから」
こう、アドバイスして、警備艇は行ってしまった。なんだか、ずいぶん親切な警備艇であった。
 ちなみに、この警備艇は、数日後、回遊中のサメを見つけて、あたりの海水浴場が閉鎖されるという事態になる。

 はたして十六羅漢を過ぎると、風はかなりおさまって、無事秋田県に入り、予定の象潟に入った。この象潟(きさかた)というところは、かつてはその名の通り潟、つまり入り江だったらしい。松尾芭蕉も奥の細道の旅で、ここにわざわざ来ているそうな。
 もちろんそんなことはあとで知ったことで、入っていった時にはまったく知らなかった。いつものように船をあげ、水を持ってきてごそごそしていると、軽トラに乗った漁師のおっちゃんが声をかけてきた。話をすると、じゃあ今から風呂に連れてってやると言う。酒田を出る前に入っているし、今日はいいやと言うと、どうしても連れていくという。それでは、とトラックに乗せてもらって、ここの道の駅にある温泉に連れていってもらった。

 ところがである、この温泉がすごかった。そもそも象潟と言うところは、多少海に突き出た地形になっているのだが、そこの一番先に温泉がある。しかも、建物の最上階4階が温泉である。浴場に入ったとたん、目にはいるのは一面の海、海、海。しかも、水平線までばしーっとさえぎるものがない。まさに絶景である。おっちゃんが、渋る河童を無理矢理連れていこうとした理由がわかった。これはすごい。日本中回って、あちこちの温泉に入ってきたが、眺めに関しては、文句なしにここが一番である。ここから見る日没は絶景だそうで、フロントには日没時刻が書いてあった。それはきれいだろうなあと思ったが、テントもはらないといけないし、食事の用意も明るいうちにならないと…と、帰ってきたのがつくづく残念であった。

一週間泊まったハルシオン。
嵐を鎮める鳥の名前なんだそうな。
睡眠薬の名前も、もともとはそこから
きているそうな。
海から見た鳥海山。
山形県警の警備艇。
とても親切だった。
象潟の港で。
5時の鐘が鳴ると、子供達が家に
帰るのが印象的だった。
日没7時なんだから、それまで外で遊べよ。
そのかわり、冬は4時に帰れ。
そっちの方がいいと思う。
これが象潟の温泉。
道の駅の上にある。
ここからの夕日を見てみたい。
もう一度行くか〜?