余市レポート

2003年10月9日

北海道小樽市

 三重県桑名で小学生が拉致された事件。小学生も見つかったし、犯人も捕まったけど、最近のこういう事件は、わけがわからん。このたぐいの事件は、報道されているより、報道されない方が多くて、割に日常的におこっているんだけど(おこってるんだ。たいていは盛り場に遊びに行ったやつが、車に放り込まれてどこかに行ってしまった、というパターン。自業自得だ)、今回の事件ばっかりは、犯人は何を考えていたんだ。人をさらっておいて、人質(?)を車に置いたまま、漫画喫茶でネットに夢中になっていたとか。もはや犯罪をしているという意識すらなかったんだろうか。こういうやつが出てくると、対策の立て方が難しい。
 生徒にはよく「お前たちは高いんだから、さらわれないようにしろよ」と言っていたが、見境がなくなると、防ぎようがない。塾の行き帰りは親が送っていった方がいいですよ、ほんと。でなけりゃ、通信教育にしましょう。中学受験の社会科ならば、河童が帰ってから開くつもりのFAX通信講座がおすすめです。

 さて、それで余市に行ってきたんだが、まあ、しかし、余市があんなに遠いとは思わなかった。
 まず、9時半頃、そろそろ行くかな、と小樽で(勝手に)住み着いている菊池さんのセールロフトを抜け出し、徒歩で築港駅に向かった。築港駅で、何の気なしに余市までの切符440円を買い込んで、時刻表を見ると電車は全部小樽止まりであった。
「ふーん、じゃあ小樽で乗り換えなんだ〜」
と、軽く考え、そのまま小樽まで行った、のだが。
 小樽についてみると、どこにも乗り換え案内がない。裕次郎ホームだとか言って、裕次郎の歌が流れていたり、ランプがぶら下がったりしているが、かんじんの乗り換え案内が、どっこにも出ていないのだ。おかしいと思い、改札の駅員に聞くと、
「あと1時間以上あります」
と、軽く答えられた。なにっ! もしかして、小樽から先に電車はないのか? そう、小樽から先に、電車はなかったのだ。電化されているのは小樽までで、そこから先は非電化単線。電車じゃない。汽車である。そういえば、北海道の人って、電車って言わずに汽車って言うよな〜などと感心してみたものの、一時間も待つなんて、いくら河童がヒマだとはいえ待ちきれない。ほかに行く手だてがないか駅員に聞くと、バスなら20分に1本出ているという。切符の払い戻しはできないけど、と付け加えられたが、しかたがない。結局、バスに乗り換えである。あらためて、余市駅前まで390円を買い直し、中央バスに乗った。これまでも、あちこちの町、もしくは村でこのバスを見かけてはいたのだが、乗るのははじめてである。普通の、というか都会の乗り合いバスとちがって、ほとんど観光バスに料金箱がついたというかんじの車で、はじめは乗り合いバスだと思わなかった。距離が長いと、バスは豪華になる。

 バスに乗ると、30分ほどで余市に着いた。さっそくかきざき商店を探した。朝、小樽のヨット乗りからメールが入っていて、ここの2階にある「海鮮市場」という食堂が、安くてうまいと聞いていたからだ。朝飯を食べていなかったので、まずは腹ごしらえをしようと思ったのだ。駅前の交差点を、少し左に行ったところにこのお店があった。さっそく、2階に上がり、すすめの「ほっけ定食」を頼む。税別360円。ほどなく、出てきたのはほっけ1匹と、どんぶりごはんにみそ汁。これで360円か。某牛丼屋の、シャケ定よりはるかにいいなと思いながら食べた。

 その後、いよいよニッカウヰスキーの工場に行った。受付で見学を申し込むと、
「勝手に回りますか? ガイド付きにしますか?」
と聞かれたので、もちろんガイド付き、とお願いした。そちらでお待ちくださいと、ロビーみたいなところで待っていたのだが、ここで地上でもっともたちの悪い集団と一緒になってしまった。それは団体旅行客である。運の悪いことに、このガイド付きツアー、何ごともなければ本当に3〜4人に1人ガイドがついて回ってもらえるらしいが、タイミング悪く、団体旅行のじじばばと同じ組になってしまった。最悪である。なすすべもなく、この悪魔のような集団と一緒に工場内を歩くことになってしまった。
 しかし、ここで河童はすばらしいものに出会った。案内についたガイド、古川嬢は、大昔、バスガイドが使っていたという伝説の言語、「すぅ〜」語のスピーカーだったのだ。「すぅ〜」語とは、語尾が必ず「でございますぅ〜」となり、この「すぅ〜」が尻上がりになるという言葉である。おお、言語学会では、すでに絶滅したと思われている幻の「すぅ〜」語が、こんなところで生き残っていたのか、と思わず感動したものの、この「すぅ〜」語の説明は、聞いていると頭が痛くなる。なにしろ、すべて「すぅ〜」なのだ。これが一般的な丁寧語に属するのか、それとも一部の限られた世界のみで通じる職業語に入るのか、言語学会では意見が分かれたのであるが、ともかく聞いていて頭が痛くなるのが廃れた理由であろう。
 ちなみに、この「すぅ〜」語の権威は、山田邦子であることは言うまでもない。

 ニッカウヰスキーの工場のなかはきれいだった。木にしろ芝にしろ、いかにも手が入っているなという感じで、工場見学と言うよりは、洋風の庭園を見ているようであった。そして、念願のウイスキーの試飲であるが、団体客に混じっての見学で、すっかりやられてしまった河童は、試飲コーナーにたどり着いた頃には、かなりへろへろになっていて、試飲どころではなかった。結局、全部まわり終わったあと、もう一度1人で一回りして飲んだのであるが、すでに集団の毒気にすっかりやられていて、ひどく苦い酒になってしまった。これではいけないと、もうちょっとおいしいのを飲もうと、わざわざ有料のウイスキーまで飲んでみたのであるが、気分の良くないときは、何を飲んでもうまくないという法則を再確認しただけだった。

 そこで、ニッカの工場をあとにして、ふたたび海鮮市場に戻ったのである。なぜか。
 先ほど海鮮市場でほっけ定食を食べたのだが、その時にショーケースの中のいくら丼が目に入った。いくら丼はいくら?などと、値段を見てみると、なんと680円! これを食わぬ手はないと思ったのだが、さすがに二つは食えないなと思ったので、帰りに寄って食べるつもりでいたのだ。またしても2階に上がり、いくら丼を頼んだ。ちなみに、河童の舌では、というより、おそらく素人の舌では、人造いくらも天然いくらも、食べただけではほとんど見分けがつかない。したがって、この680円のいくら丼がはたして人造物なのか、天然物なのかはわからないままである。ま、食ってわかんないんだから、どっちでもいい。

 で、腹一杯でバスに乗って帰ってきたのである。バスから見る海は、なるほどたしかにきれいであった。もう漕がなくてもいいんだなと思うと、またいっそうきれいに映った。サーファーが何人か、その中に浮かんでいた。

ほっけ定食。
これで360円だ。
工場の中。
工場らしくない。
おそらく日本最後の「すぅ〜」語使い古川嬢。
何人かガイドはいるみたいだが、この人だけが
「すぅ〜」語を使うらしい。
わざわざ調べた。
こんな風にウイスキーが寝ている。
樽の工房。
ガラス越しに撮ったんで、フォーカスが狂った。
樽は3回ぐらい使うらしいが、その度に調整が
必要。
エポキシ塗っちゃえば?なんてもちろんだめ。
樽の廃材を利用した家具もあった。
ちなみに、このカーブは蒸し曲げらしい。
680円のいくら丼。
ウニ丼は時価ということで、
この日は千円ちょっとだった。
一般的なウニ丼の価格は三千円(河童調べ)。