地震速報

2003年9月26日

北海道根室市

 何はともあれ、地震速報を書いておく。

 納沙布岬を、ほんの少しだけ越えて、珸瑶瑁(ごようまい)という港に、入ったのが25日の朝。南風が強くて漕げる状況でなく、しかも2〜3日は時化になりそうということで、ここでお隠りだなと、港のスロープにかわうそ号も引っぱり上げて、テントに引っ込んでしまった。昼過ぎから雨が降り出して、そのまま寝ていた。

 26日の午前3時頃、風向きがこれまでの南西から南東にかわり、テントがあばれだしたので、雨の中、テントを出てしばりなおした。その後、うとうとしていたのだが、ふと気が付くと地面が揺れている。おお、地震だと目を開けると、揺れはさらに大きくなった。しかも、これまで経験したどの地震よりも揺れている時間が長い。ああ、これはダメだ、津波が来る、と揺れている中、天井に引っかけてあった服を引きはがし、すぐに身につけた。テントから出ると、外は雨と風でひどい状態だった。そんなこともかまっていられない。すぐかわうそ号からパソコンとカメラを取り出し、ハッチを閉めた。津波に持っていかれても、水さえ入らなければどこかで浮いているだろうと、焦る手でハッチのパチン錠だけをかけていった。いつもは、これにくわえてネジ式の留め具も閉めるのだが、そんなものを閉める余裕はない。すぐに港から延びている坂道を駆け上がった。持っているものは、いつも手回りの荷物を入れてあるデイパック、ラジオ、カメラ、パソコン、それに傘であった。
 坂の中程まで登って、やれやれ、これでなんとかなるな、とラジオを聞きながら港を見下ろした。テントとかわうそ号は、最悪、あきらめるしかない。

 ところが、そうしているうちに、今度は漁師がどんどん港に下りていく。この辺りは民家は30メートルほどの丘陵地の上にあって、港だけが下にある。河童の立っている坂道を、軽トラックがどんどん下りていくのだ。見ていると、スロープに引き上げているフネを、さらに引っぱり上げるようだ。かわうそ号もその間に入れてあるし、じゃまになってはまずいので、荷物をそこにおいて、いったん港に戻ることにした。かわうそ号のそばまで来ると、かわうそ号の両脇においてあったフネがスロープの上まであげられて、かわうそ号の前に隙間ができていた。これ幸いにと、かわうそ号をその横まで、さらに引っぱり上げ、もやいをしばり、時計を見ると5時15分であった。ラジオによると、この辺りの津波到達時刻が5時20分。あわてて、また坂の途中まで駆け戻った。漁師はまだ港に残っていたが、とてもつきあう勇気はない。5時20分を過ぎ、津波は来ないのかなどと思っていると、30分ぐらいになって、突然海面が下がりはじめた。港の入り口にある岩礁が、みるみる海面に現れだした。ついで、海面が上がりだし、岸壁から30センチほどのところまで水がきた。幸いなことに、水位の上昇はこれで終わり、水位は少し下がって通常の水位に戻った。5時50分まで坂の上にいたが、寒くてしかたなく、ともかくテントに戻ろうと港に下りていった。スロープには、漁師がたくさん集まっていて、そこで話をしていると、根室の友人から電話がかかってきた。すまんが、助けてくれ、と頼んで迎えに来てもらうことになった。かわうそ号は、置いておいてかまわんよ、と漁師にいわれたので、そのまま頼みます、といって置いてきた。

 そうして、ふたたび根室市内の(といっても、珸瑶瑁も根室市内)友人のアパートに戻ってきた。

 しかし、今日ばっかりは、もうダメかと思った。地震はともかく、どれだけの津波がくるのやら想像がつかない。これまでの資料やらホムペ原稿の入っているパソコンとカメラだけは持ち出したものの、そのほかのものは、かわうそ号本体も含めて、一時はすべてあきらめた。

 まあ無事でよかった。しかし、疲れた。

津波の様子。
右端のフネと防波堤の高さに注目。
上の写真からわずか3分後。
じわっと引いていって、じわっと寄せてくる。
もう少しで岸壁を越えるところだった。
これを越えられたら、被害は甚大であった。
ともかく引っぱり上げたかわうそ号。
テントも、スロープのすぐ上にはったから、
津波が岸壁越えたら、即アウト。
ギリギリだよ〜。